最終更新:2026-08-20
📚 この記事は、警察庁・各都道府県警察・e-Govの法令など公的な一次情報にもとづき、航路編集部が内容を確認しています。
刻印が削られている。相場よりずっと安くていいと言う。入手の経緯を聞くと話が曖昧になる。——買取をしていれば、いつか必ず当たる場面です。
このとき古物商が負う義務を、古物営業法は第15条第3項に置いています。ところがこの条文、3か所で読み違えられます。「盗品だと確信できないから様子を見る」「盗品でなければ関係ない」「罰則がないなら軽い義務だ」——どれも逆です。順に見ていきます。
条文が使っているのは「盗品」ではなく「不正品」です
まず条文そのものを見てください。
古物商は、古物を買い受け、若しくは交換し、又は売却若しくは交換の委託を受けようとする場合において、当該古物について不正品の疑いがあると認めるときは、直ちに、警察官にその旨を申告しなければならない。
(古物営業法 第15条第3項)
「盗品」ではありません。「不正品」です。この言葉の意味は、警察庁の解釈運用基準(令和8年5月14日付け警察庁丙生企発第51号)第14の5が定めています。
法第15条第3項の「不正品」とは、犯罪構成要件に該当する行為によって領得された物であり、「盗品等」、すなわち刑法上の財産犯の被害に遭った物よりも広い概念である。
古物商にとっては、受け取った古物が何らかの犯罪によって領得された物である疑念を持っても、それが刑法上の財産犯であるか否かは必ずしも明らかではないので、古物商が「不正品」を受け取った場合に申告義務を課しているものである。
通達が理由まで書いています。「盗品かどうかを見分ける必要はない」——財産犯かどうかの判断は古物商にはできないのだから、犯罪によって取られた物の疑いがあれば申告させるという設計です。
したがって、詐欺・横領・恐喝で取られた物はもちろん、財産犯以外の犯罪によって領得された物(薬物取引の対価として渡された物、贈収賄の物品など)も「不正品」に含まれます。
同じ「盗品」という言葉が、条文の3か所で違う範囲を指しています
ここが古物営業法でいちばん取り違えやすいところです。日常語では全部まとめて「盗品」と呼びますが、条文では3つに分かれていて、範囲が違います。
| 条文 | 使われている語 | 意味(解釈運用基準) | 広さ |
|---|---|---|---|
| 法15条3項 (申告義務) | 不正品 | 犯罪構成要件に該当する行為によって領得された物(第14の5) | いちばん広い |
| 法19条1項 (品触れ) | 盗品その他財産に対する罪に当たる行為によつて領得された物 | 刑法第2編第36章から第39章までの犯罪の構成要件に該当する行為によって領得された物(第16の1) | 中くらい |
| 法20条 (無償回復) | 盗品 | 窃盗又は強盗により占有を奪われたもの。詐欺、恐喝、横領の罪によって領得又は横領されたものは含まない(第17の2) | いちばん狭い |
つまり「不正品」⊃「盗品等」⊃「盗品」という入れ子になっています。申告義務がかかるのはいちばん外側の「不正品」です。「窃盗されたものかどうか」で判断すると、いちばん狭い箱で考えていることになり、義務を取りこぼします。
逆に、法20条の「盗品」が狭いことにも実務上の意味があります。詐欺・恐喝・横領で取られた物は法20条の無償回復(盗難から1年)の対象外です。「盗品だから1年間は無償で返さないといけない」という理解は、窃盗・強盗の場合の話です。品触れについては品触れ(しなぶれ)が届いたらで整理しています。
「疑いがあると認めるとき」に、確信は要りません
条文は「不正品の疑いがあると認めるとき」と書いています。確信は必要ありません。疑いを認めた時点で義務が生じます。
判断の材料になるのは、たとえば次のような事情です。
- 品物に製造番号や刻印が削られた跡がある
- 同種の物が繰り返し大量に持ち込まれる
- 相手が相場を大きく下回る価格でも構わないと言う
- 身分証の提示を渋る、記載内容が不自然
- 品物の入手経緯の説明が曖昧、または不自然
- 品物と相手の属性が明らかに釣り合わない
「盗品かどうか分からないから様子を見る」という判断は、条文の趣旨と逆です。分からないからこそ申告する制度になっています。
また、申告先は警察官です。公安委員会ではありません。そして期限は「直ちに」——次に警察が来たときに、ではありません。
盗品売買等防止団体の照会サービスの結果を待つ必要もありません。照会は事前チェックの手段であって、法15条3項の義務は照会の結果を待って生じるものではありません。疑いを認めた時点で申告です。順序を取り違えないでください。
この義務に罰則はありません。ただし営業停止はあります
ここがいちばん誤解されるところです。法15条3項の申告義務に、罰則はありません。
古物営業法の罰則は第31条から第39条までですが、そのどこにも法15条3項は出てきません。実務でいちばん引かれる第33条第1号を見てください。
次の各号のいずれかに該当する者は、六月以下の拘禁刑又は三十万円以下の罰金に処する。
一 第十四条第三項、第十五条第一項、第十八条第一項又は第十九条第三項若しくは第四項の規定に違反した者
(古物営業法 第33条第1号)
並んでいるのは第15条第1項(本人確認)であって、第15条「第3項」は入っていません。
| 義務 | 罰則 | 行政処分 |
|---|---|---|
| 本人確認をしない(法15条1項) | 第33条第1号 六月以下の拘禁刑又は 三十万円以下の罰金 | 指示(法23条) 営業停止・許可の取消し(法24条) |
| 不正品の疑いを申告しない(法15条3項) | 罰条なし |
では申告しなくてよいのか。違います。順序が逆です。
法23条第1項の指示は「この法律……の規定に違反した場合において、盗品等の売買等の防止……が阻害されるおそれがあると認めるとき」、法24条第1項の営業停止・許可の取消しは「……著しく阻害されるおそれがあると認めるとき」を要件にしています。「著しく」の一語が指示と営業停止を分けています。いずれも罰則の有無とは無関係です。
不正品の疑いを認めながら申告しなかったという事実は、「盗品等の売買の防止が阻害されるおそれ」の評価に直結します。罰金30万円で済む違反より、営業停止のほうが商売にとっては重い結果になり得ます。「罰則がないから軽い義務」という読み方は成り立ちません。
さらに、盗品と知りながら買い受ければ、刑法第256条第2項(盗品等有償譲受け等)の問題になります。こちらは古物営業法の罰則よりはるかに重く、しかも古物営業法第4条第2号により、罰金であっても5年間の欠格事由になります。許可そのものを失う話です。欠格事由もあわせて確認してください。
申告は、自分を守る行為でもあります
義務だから、という以外にも、事業者の側に実利があります。
| タイミング | 申告することで得られるもの |
|---|---|
| 買い取る前に申告する | そもそも不正品をつかまされずに済む |
| 買い取った後に申告する | 盗品と知りながら扱ったのではないことの記録になる |
| 早いほどよい | 法20条により、窃盗・強盗の被害品は1年以内なら無償で返還することになる。早く止めるほど損失が小さい |
本人確認(法15条1項)をきちんとしていれば、買い取った相手を特定できます。特定できれば、代金の返還を求める相手が残ります。本人確認は「面倒な義務」ではなく、この場面で自分の損失を減らす唯一の手がかりです。許可を取ったあとに続く義務の全体像は取ったら最初にやることに、記録の残し方は古物台帳とプレートにまとめています。
不正品に当たるかどうかの最終的な判断、申告の具体的な方法(電話か、来署か)、その後の手続きは、都道府県や管轄の警察署によって運用が異なることがあります。迷ったら自分で決めず、営業所を管轄する警察署の生活安全課(防犯係)へご確認ください。本記事は一般的な情報提供であり、個別の事案への判断を保証するものではありません。
参照した一次情報
- e-Gov法令検索「古物営業法」(昭和24年法律第108号)
- 警察庁「古物営業法等の解釈運用基準について(通達)」令和8年5月14日付け警察庁丙生企発第51号(第14の5「不正品」の意義/第16の1/第17の2)
- e-Gov法令検索「刑法」(明治40年法律第45号)(第256条 盗品譲受け等)
※ 令和6年8月14日付け丙生企発第272号および令和7年8月20日付け丙生企発第61号の解釈運用基準は、上記の令和8年5月14日付け通達により廃止されています。古い解説を読むときはご注意ください。