最終更新:2026-08-23
📚 この記事は、警察庁・各都道府県警察・e-Govの法令など公的な一次情報にもとづき、航路編集部が内容を確認しています。
買い取って、値札をつけて、売り先も決まっている。そこへ警察から「その品物を保管しておいてください」と言われる。——これが古物営業法の差止めです。売れません。渡せません。
そして厄介なことに、この命令は盗品だと確定する前に出ます。「まだ捜査中でしょう」と言って売ってしまうと、罰則があります。しかも買い取る前の申告義務(法15条3項)には罰則が無いのに、です。この非対称が、この制度のいちばん大事なところです。
条文が命じているのは「30日以内の期間を定めて、保管すること」です
まず条文を見てください。短い条文です。
古物商が買い受け、若しくは交換し、又は売却若しくは交換の委託を受けた古物について、盗品等であると疑うに足りる相当な理由がある場合においては、警察本部長等は、当該古物商に対し三十日以内の期間を定めて、その古物の保管を命ずることができる。
(古物営業法 第21条)
読みどころが3つあります。
- 命じるのは「警察本部長等」——警視総監、道府県警察本部長、警察署長のことです(法19条1項が定義しています)。公安委員会ではありません。
- 命じられるのは「保管」であって、引渡しでも没収でもありません。手元に置いたまま動かすな、という命令です。
- 期間は「三十日以内」。期間を定めずに出すことはできません。
条文に「古物市場主」は出てきません。品触れ(法19条)は「古物商又は古物市場主」に対して発せられますが、第21条の差止めは古物商だけを名あて人にしています。条文を並べると、対象がそろっていないことが分かります。
「盗品だと分かってから」ではありません
要件は「盗品等であると疑うに足りる相当な理由がある場合」です。盗品であることの立証も、被害届との照合結果も、条文は求めていません。
ここでいう「盗品等」は、法19条1項が定義しています。盗品その他、財産に対する罪に当たる行為によって領得された物——つまり窃盗・強盗だけでなく、詐欺・恐喝・横領で取られた物も入ります。
捜査が終わるのを待って命令が出るのでは、その間に品物が流れてしまいます。疑いの段階で流通を止めるための制度だと考えると、要件の軽さが読めます。
「自分から言う義務」と「命じられた義務」で、罰則が逆になっています
古物営業法には、盗品まわりの制度が3つ並んでいます。混ざりやすいのですが、動く人も、対象になる古物の時間軸も、罰則も違います。
| 制度 | 誰が動くか | いつの古物か | やること | 罰則 |
|---|---|---|---|---|
| 不正品の申告 (法15条3項) | 自分から | これから買い受ける・委託を受けようとする古物 | 直ちに警察官へ申告する | なし (指示・営業停止の対象にはなる) |
| 品触れ (法19条) | 警察から書面が来る | 品触れに相当する古物 | 到達の日付を書いて6か月保存する。持っていた・受け取ったら直ちに届け出る | 第33条第1号・第4号 |
| 差止め (法21条) | 警察から命令が来る | すでに買い受け・交換・委託を受けた古物 | 定められた期間(30日以内)、保管する | 第33条第5号 六月以下の拘禁刑又は 三十万円以下の罰金 |
並べると、いちばん自主性に任されている申告義務にだけ罰則が無く、警察から来た命令を破ったときに罰則があるという形になっています。
「罰則が無いなら軽い義務だ」という読み方が成り立たないことは盗品かもと思ったらで書いたとおりですが、差止めのほうは、そもそも罰則が正面からあります。迷う余地はありません。
命令に違反すると、六月以下の拘禁刑又は三十万円以下の罰金です
次の各号のいずれかに該当する者は、六月以下の拘禁刑又は三十万円以下の罰金に処する。
五 第二十一条又は第二十一条の七の規定による警察本部長等の命令に違反した者
(古物営業法 第33条第5号)
保管を命じられた古物を、期間内に売った・引き渡した・処分した——いずれも命令違反です。
さらに、罰金であっても古物営業法第4条第2号の欠格事由に当たれば、許可そのものを失います。罰則の重さだけで判断しないでください。あわせて欠格事由もご確認ください。
罰則だけでは終わりません
営業停止と許可の取消しを定めた第24条第1項は、要件を2つ並べています。「又は」でつながれた、別々の要件です。
……盗品等の売買等の防止若しくは盗品等の速やかな発見が著しく阻害されるおそれがあると認めるとき、又は古物商若しくは古物市場主がこの法律に基づく処分に違反したときは、……公安委員会は、……許可を取り消し、又は六月を超えない範囲内で期間を定めて、その古物営業の全部若しくは一部の停止を命ずることができる。
(古物営業法 第24条第1項)
差止めは「この法律に基づく処分」です。命令に従わなければ、後半の要件にそのまま当たります。前半の「著しく阻害されるおそれ」を認定してもらう必要はありません。
ネットオークションの運営側には「競りの中止」が来ます
第33条第5号には、第21条と並んで第21条の7が書かれています。こちらは古物商ではなく、古物競りあっせん業者——ネットオークションを運営する側に向けた規定です。
古物競りあつせん業者のあつせんの相手方が売却しようとする古物について、盗品等であると疑うに足りる相当な理由がある場合においては、警察本部長等は、当該古物競りあつせん業者に対し、当該古物に係る競りを中止することを命ずることができる。
(古物営業法 第21条の7)
命じられる内容が違います。あっせん業者は品物を持っていないので、保管ではなく競りの中止です。罰則は同じ第33条第5号で、六月以下の拘禁刑又は三十万円以下の罰金です。
保管しているあいだも、無償回復の1年は進みます
差止めの期間は30日以内ですが、それとは別の時計が動いています。法20条の無償回復です。
古物商が買い受け・交換した古物のうちに盗品または遺失物があったとき、被害者や遺失主は、古物商が善意で譲り受けていたとしても、無償で返すよう求めることができます。ただし盗難または遺失のときから1年を経過した後は、この限りではありません。
ここでの「盗品」は窃盗と強盗に限られます。詐欺・恐喝・横領で取られた物は法20条の対象外です。同じ品物でも、法21条の「盗品等」には入るのに、法20条の「盗品」には入らない、ということが起こります。語の広さの違いは盗品かもと思ったらの表にまとめてあります。
「誰が動くか」で、制度が分かれています
差止めを出すのは警察本部長等、営業停止を出すのは公安委員会、申告を受けるのは警察官。古物営業法は、場面ごとに主体を書き分けています。相手を間違えると、届くべきところに届きません。
| 何をするか | 主体 | 根拠 |
|---|---|---|
| 不正品の疑いの申告を受ける | 警察官 | 法15条3項 |
| 品触れを発する | 警察本部長等 (警視総監・道府県警察本部長・警察署長) | 法19条1項 |
| 差止め(保管を命ずる) | 法21条 | |
| 競りの中止を命ずる | 法21条の7 | |
| 盗品等に関し報告を求める | 法22条3項 | |
| 営業所などに立ち入り、検査・質問する | 警察職員 (営業時間中・証票の提示が必要) | 法22条1項・2項 |
| 指示を出す | 公安委員会 | 法23条 |
| 営業停止・許可の取消し | 法24条 |
差止めは、公安委員会の処分ではありません。警察署長までが出せます。「公安委員会からの通知を待つ」という発想は当てはまりません。
命令を受けたときに、確認しておくこと
- 対象の古物と期間を書面で確認する。期間は30日以内で定められているはずです。
- 売らない・引き渡さない・手を入れない。命じられているのは現状のままの保管です。
- 本人確認(法15条1項)と古物台帳(法16条)の記録を見返す。誰から、いつ、いくらで受け取ったかが残っていれば、後の話が早く進みます。記録の残し方は古物台帳とプレートに整理しています。
- 品触れが来ていないかも確認する。差止めと品触れは別の制度で、同時に動くことがあります(品触れが届いたら)。
差止めの具体的な運用(命令の書式、期間の定め方、期間が過ぎたあとの扱い、保管場所の指定の有無)は、都道府県や管轄の警察署によって異なることがあります。条文はここまでしか書いていません。実際に命令を受けたら、営業所を管轄する警察署の生活安全課(防犯係)へご確認ください。本記事は一般的な情報提供であり、個別の事案への判断を保証するものではありません。
参照した一次情報
- e-Gov法令検索「古物営業法」(昭和24年法律第108号)(第15条第3項 申告/第19条 品触れ・「警察本部長等」「盗品等」の定義/第20条 盗品及び遺失物の回復/第21条 差止め/第21条の7 競りの中止/第22条 立入り・報告/第23条 指示/第24条 営業停止・許可の取消し/第33条第5号 罰則)